ブログマンのブログ

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「アマゾンと物流大戦争」の紹介

今回は角井亮一氏著の「アマゾンと物流大戦争」を紹介したいと思います。世界の小売業界を席捲しつつあるアマゾンはいかにして成長してきたのか、また日本企業はアマゾンを前にどのような戦略で対抗していくのか、について考察されています。

 

アマゾンと物流大戦争 (NHK出版新書)

アマゾンと物流大戦争 (NHK出版新書)

 

 

 

アマゾンが強大である理由

アマゾンは人によってはAWSAmazon Web Company)としてクラウドを提供する企業と捉える方もいればネット通販企業と捉える方もいると思います。しかし、本書ではアマゾンを「ロジティクス・カンパニー」と捉え、世界への影響の大きさを指摘しています。ロジティクス(本書では「需要を予測して物の流れや在庫を管理し、円滑かつ低コストに輸送するなど、物流における最適化を図ること」と定義している)は非常に参入障壁が高く、洗礼されたロジティクスを構築するには多くの年月、費用がかかります。ロジティクスは物流の核でありそれがいかに最適化されているかが企業の売り上げ、顧客の満足度に直結します。アマゾンはロジティクスの品質を上げることで商品を低価格で提供し、売り上げを増加させています。そして増加した売り上げを物流センター増設への原資とし、ロジティクスの品質が更に向上するという良循環が生まれます。この良循環で他企業が真似できない低価格を実現する。これがアマゾンが強大であることの理由です。

 

アマゾンが小売・流通業の「破滅」をもたらす

上記で述べられた良循環により売り上げを飛躍的に伸ばし、扱われる商品も次々と増えます。結果、アマゾンが持つ価格支配力がより大きくなります。日本ではその影響は目に見えてはいないものの、アメリカでは書店や出版社が既に影響を受けています。具体的には2011年に全国に500店舗を書店を展開していた全米2位のボーダーズ・グループが経営破綻しました。

また、アマゾンは最新のテクノロジーを商品配達に利用ことを目指しており、従来の配達方法の「破滅」も画策しています。 2016年には日本でドローン配送により注文後30以内に配送するサービスを計画していました。イギリスでは配送の公開実験に成功しています。

 

アマゾンに対抗する日本企業

こうしたアマゾンの攻勢に対抗する日本企業を紹介します。

ヨドバシカメラ

サービス産業生産性協議会が2009年より毎年発表をしている日本版顧客満足度指数で通信販売部門でヨドバシ・ドットコムが2016年度に3年連続1位となりました(アマゾンは4位)。その理由はアマゾンを超える物流品質です。ヨドバシ・ドットコムは配送料は当日お届け含め基本無料です。ヨドバシ・ドットコムは専用の物流センターを構築し関東1都6県、関西2府4県で当日配達が可能です。また、ネット通販の購入商品受け取り可能な店舗もあり、ネットにはない利便性も提供しています。

また、全店舗で無料WiFiを提供しています。そのため他社との価格を比較したり、店舗をショールームと捉え購入はネット通販で行うことも可能です。これは当日配送が可能であるために実現できることであり、顧客は商品を持ち帰る必要はありません。このようは方法でヨドバシカメラ顧客満足度をあげています。

ロハコ

ロハコは2012年から個人向けネット通販企業を始め、4年間で250万人の顧客を抱える年商300億円の企業です。その秘訣はオリジナリティー溢れる品揃えにあります。アマゾンの2017年での商品点数は約2億点と言われているのに対し、ロハコは20万と3桁少ない品揃えです。しかし、ロハコしか販売していないミネラルウォーターやお米を提供しています。そのために水販売会社を子会社したり、自前の物流センターに独自の精米センターを開設するなど、アマゾンにはない独自路線を行っています。

また、ロハコはP&G、資生堂、味の素、日清食品など幅広い大手メーカーと商品の共同開発を積極的に行っています。ネット通販では、商品の説明や成分が商品ページで記載されることに加え、実店舗に目につくよう考慮した派手なパッケージにする必要もありません。そのため自由度の高いパッケージを作成することができ、よりターゲットに合わせた仕様を実現することができます。

 

アマゾンに対抗する戦略とは

日本企業の戦略を踏まえた上で、今後の物流業界では避けられないアマゾンとの競合でどう生き残って行くかの戦略が述べれらています。

①新たなロジスティクスを構築する

商品を当日配送するというスピード配送を競うことに止まらず、より顧客の望む時間帯と指定された場所に届けることが求められています。そのためヨドバシカメラのように店舗受け取りやコンビニ受け取りを実施する動きが出ています。このような顧客のニーズに基づき、どのようなロジティクスを構築するかが生き残る鍵となります。

②独自商品を持つ

アマゾンの方針は「エブリシング・ストア」であり、より豊富な品揃えを提供することにあります。そのためロジティクスへの投資を続け、商品をより低価格で提供することを常に目指しています。それに対抗するにはロハコのようにメーカーと協力し、アマゾンでは購入できない商品を販売することが一つの戦略としてあげられます。また、一般商品として流通していない産地直産の生鮮食品やハンドメイドの取り込みなどにも可能性があると考えられます。アマゾンで扱っていない商品にどう付加価値をつけるかが重要となりそうです。

③ネット販売と店舗販売の使い分け

ヨドバシカメラのように既存の店舗を持っている企業では、在庫管理の一元化とネットと店舗の価格統一が前提となります。近年では店舗を商品を販売する場所でなく商品の良さを伝える場所として提供し、購入はネットで行ってもらうビジネスモデルを持つ企業も存在します。(本書ではワービーパーカーやボノボスという企業を例にあげていました。)このように顧客接点のあり方を再定義し、ネット通販としての新たな価値を見いだすことでアマゾンに対抗する戦略もあります。

 

最後に

本書は2016年と少々古い情報ではあるものの、アマゾンがいかにして物流業界を席巻しつつあるのか、他の企業はどのようにして生き残っていくのかということがわかりやすく紹介されていました。私自身も日頃からアマゾンを利用する1ユーザとしてアマゾンのビジネスモデルに興味を持ち、本書を読みました。本書ではここで述べられていないアマゾンと楽天の物流の違い(総合ネット通販型とモール型ネット通販の違い)も説明されいます。そこで楽天が現在物流で苦戦している理由が説明されており、とても興味深かったです。興味のある方は是非読んでみてはいかがでしょうか。